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4. 返読の規則

漢文における語順は日本語とは異なり、むしろ英語のそれに似ています。 そのため、語順を逆にして読むための記号として「返り点」というものが考案されました。 ここでは、この返り点を中心として読み方の基本について簡単に説明します。

返り点とは、「レ」、「一・二・三」、「上・中・下」、「甲・乙・丙・丁」などの記号のことで、 各々を「レ点」、「一二点」、「上下点」、「甲乙丙点」といい、 読み方の順序を表現したものです。では、つぎの詩を参考にして、この返り点について説明してみます。

「春晩」 花飛蝶駭五更風 回首繁華夢忽空 莫脱春衣軽浣濯 旧歓留在酒紅中
作 者
大沼枕山(オオヌマ チンザン)=名は厚、字は子寿、枕山と号す。梁川星巌、菊池五山に学ぶ。 明治初期、下谷に下谷吟社を設け、盛況を極めた。明治二十四年没。年七十四。『枕山詩鈔』六巻、遺稿一巻がある。
読み方

春晩(シュンバン)

花(ハナ)は飛()び、 蝶(チョウ)は駭(オドロ)く、 五更(ゴコウ)の風(カゼ)。 首(コウベ)を回(メグ)らせば、 繁華(ハンカ)、夢(ユメ)、 忽(タチマ)ち空(ムナ)し。

春衣(シュンイ)を脱(ダツ)して、 軽(カル)がるしく浣濯(カンタク)すること莫(ナカ)れ。 旧歓(キュウカン)、留(トド)めて在()り、 酒紅(シュコウ)の中(ウチ)に。

語 釈
春晩=晩春に同じ。 花飛蝶駭=駭は驚に同じ。句中対。 五更風=明け方の風。五更は午前四時頃。 繁華=草木がよく茂って花が咲いていること。 浣濯=洗いすすぐこと。洗濯に同じ。 旧歓=昔の歓び。 酒紅=酒の痕。

この詩で返り読んでいるところに返り点を付けて表現するとつぎのようになります。

  • 春衣軽浣濯

このように一字返り読むときは「レ点」を用い、二字以上返り読むときは「一二点」を用います。 また、「一二点」だけでは足らない場合、「上下点」を用い、それでも足らない場合に「甲乙丙点」を用います。 この中で「上下点」、「甲乙丙点」は漢詩では希にしか使われず、その大部分は「レ点」と「一二点」です。 これで「返り点」が読む順番を示しているという働きは分かると思いますが、どのような場合に返り読むのでしょうか。

古来、「ヲ・ニにあったら返れ」とか「ヲ・ニ・ヨリ・ト・ラルにあったら返れ」と言われています。 「春晩」の詩では、

  • 首 (首回らせば)
  • 春衣 (春衣脱して)

などが、その例です。ところで、春晩の詩の中で、

  • ・・・浣濯 (浣濯すること莫れ)

の場合、「ヲニ」ではく、「スルコト」と読んで戻っています。これは、「莫」が必ず返る文字(返読文字という)であり、特別な場合です。このような類いの文字は、少ないので先人の作を多読するうちに自然と分かるようになるので心配はいりません。では、返り読む場合について、いくつかの例を見てみましょう。

  • 書 (書読む)
  • 山 (山登る)
  • 車 (車停む)

これらの例では、「ヲニにあったら返れ」の原則に従って返り読んでいます。 ところで「読」、「登」、「停」という字のことを「虚字」という場合があります。 「虚字」とは、動詞・形容詞がいっしょにされて、古来そのように呼ばれています。その他の例外的に返り読む場合には、

  • 限 限り有り
  • 解 解し難し
  • 雪 雪の如し

などの「有・無・難・易・多・少・如」が返読文字であり返り読みます。 さらには、助動詞も返るとされています。助動詞としては、「不・可」などが代表的な文字です。

  • 知 知ら
  • 見 見え

このように一部の例外はあるものの返る場合の基本は、

  • 「ヲ・ニにあったら返れ」

です。ただし、実際の作品の中でも、この規約を無視した(すなわち誤っている)ものが多数あるので注意する必要があります。例えば、

  • 静 静か坐す(誤り)
  • 遥 遥か望む(誤り)

の場合の「ニ」は、「ヲ・ニ」の「ニ」とは異なります。 すなわち、「ヲ・ニ」は格助詞と呼ばれるものであり、「静かニ」の「ニ」は形容動詞の活用語尾になっています。 そのため先の例は、

  • 静坐 静かに坐す
  • 遥望 遥かに望む

とするのが正しい書き方です。最後に、「再読文字」と呼ばれるものについて簡単に説明します。次の例を見てください。

  • 未だ成ら

この場合、「未」の文字が「再読文字」と呼ばれるもので、一度その文字を読んでから再び返ってもう一度読むという性質のものです。すなわち、

  • ..... 未ダ.....

という具合に返り読みます。このように「返る」ということを納得すれば、 返り点、送り仮名の付いていない漢詩(白文といいます)も次第に読めるようになります。 また、最初は、よく分からない部分ばかりで、困ってしまいますが、これもそのうち慣れてくれば、次第に分かるようになります。 あせらずに、コツコツと精進してください。

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